【組織マネジメント100の考え方】#3「ミッションは日々の意思決定の基準となる」

―「何をするか」ではなく「なぜそれをするのか」を問い続ける ―

ビジョンが未来の理想像を示す「北極星」だとすれば、ミッションは日々の行動の「判断基準」となる実践的な羅針盤です。多くの企業や組織が、事業やサービスの運営において迷いを感じる背景には、この「ミッションの不在」または「ミッションの不浸透」があると言っても過言ではありません。

明確なミッションを掲げ、それに基づいて判断と行動を積み重ねていくことが、組織の統一感・スピード・持続性の鍵を握ります。


ミッションとは何か? 単なる理念文ではない

「ミッション」とは、組織が果たすべき“使命”や“存在理由”を端的に表したものであり、何を実現するためにその事業を行っているのか、誰にどのような価値を提供しようとしているのかを明確にするものです。

例えば、ある歯科医院が「地域の健康寿命を10年延ばすことに貢献する」というミッションを掲げていたとします。このミッションが明確であれば、診療メニューの選定、スタッフの研修方針、コミュニケーションのあり方など、あらゆる場面での判断がブレにくくなります。

仮に「最新の美容機器を導入するべきか?」という議論が出た際にも、その判断軸はミッションに立ち返ることで明確になります。たとえ利益が見込めるものであっても、それがミッションと乖離しているならば、長期的には組織の信頼や一貫性を損なう可能性があるのです。


意思決定の一貫性を生む「軸」

ミッションが明確であるということは、トップから現場まで、組織のすべての階層に共通する「判断の軸」があるということです。これは特に、分権化された組織や複数の事業部を抱える企業にとって重要です。どれほど優れた計画や戦略を立てても、現場での解釈や実行がバラバラでは成果に結びつきません。

たとえば、現場が目先の数字だけを追い、無理な営業や施術をしてしまったとします。これが顧客満足度やリピート率の低下を招き、結果的に中長期的なブランド毀損へとつながる――こうした事態は、ミッションが「判断軸」として機能していない証拠です。

一方、社員一人ひとりが「私たちの使命はこれだ」と理解していれば、「この行動は本当に使命にかなっているのか?」と自ら問い直すことができ、現場主導でも質の高い意思決定が可能になります。


ミッションは“納得”と“共感”で浸透する

多くの企業では、ミッションを定めたものの、それが実際に社員に浸透していないという課題に直面します。これは、多くの場合、ミッションの“共有の仕方”に問題があります。

形式的な朝礼で唱和するだけでは、社員の心には響きません。経営者やマネジメント層が、自身の経験や葛藤を交えてミッションについて語り、「なぜこれを大切にしているのか」「このミッションにどう向き合ってきたか」をリアルに伝えることが、社員の共感を生む出発点です。

また、社員自身が日々の業務の中で「この判断はミッションに沿っているのか?」を考えたり、会議や面談で「ミッションに照らしてどう感じるか?」を対話のテーマにしたりするなど、日常業務とつなげて繰り返し触れることで、ようやく浸透が始まります。

ミッションは“納得”と“共感”を通じて初めて、行動のガイドラインとして機能するようになるのです。


ミッションと利益は対立しない

ある経営者が言いました。「利益は“ミッションの結果”として得られるものだ」と。これは非常に重要な考え方です。ミッションを掲げることが、短期的利益と対立するのではないかと懸念する声もあります。しかし、真のミッションは、長期的に見て最も強固な競争優位性を生み出します。

たとえば、患者一人ひとりに丁寧な説明とケアを行い、安心して通院できる関係性を築くことがミッションの一部だとします。これに時間やコストがかかったとしても、患者の信頼や口コミ、長期通院によるリピート率向上などを通じて、結果的に利益に結びつくのです。

ミッションがあいまいな企業は、短期的な収益のために価格競争に陥り、差別化が困難になります。一方で、ミッションを軸に提供価値を磨く企業は、ファンを生み、強固なブランドを築くことができます。これが、戦略としての“ミッション経営”の強さです。


ミッションを再定義する勇気

時代や市場環境が変化すれば、かつて掲げたミッションが現状と乖離してしまうこともあります。そうした場合に必要なのは、ミッションの「見直し」です。変更=ブレではなく、成長に応じた「再定義」であり、進化なのです。

たとえば、創業当初は「安価でスピーディなサービスを届ける」ことがミッションだった企業が、現在では「質の高い専門サービスで顧客の人生に寄り添う」ことへと使命を進化させるケースもあります。

大切なのは、その時点での組織の本質と向き合い、「今、何のために存在しているのか?」を問い直すこと。そして、その答えを社員とともに見出し、再び行動指針として機能させることです。


結論:判断の一つ一つに“使命”を込める

ミッションは、企業の理念やポスターに書いておくものではなく、一つひとつの判断と行動に組み込むべきものです。ミッションのある組織は、なぜそれをするのか、なぜそれを選ばないのかを常に問い続けています。そうした継続的な問いと実行が、組織を深く、強く、しなやかに成長させていくのです。

「判断が早い組織」は、ミッションが明確な組織です。そして「判断がぶれない組織」は、ミッションが浸透している組織です。

あなたの組織のミッションは、社員の判断に活かされていますか? その問いかけこそが、マネジメントの第一歩です。

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