【組織マネジメント100の考え方】#5「短期利益より長期価値を優先する」

―「今すぐ儲かる」ではなく、「永く愛される」組織をめざせ ―

多くの経営者や組織が、日々の業績や売上、コスト削減といった「短期的な成果」に注目するのは当然のことです。実際、目の前の数字を追いかけなければ企業は存続できません。しかし、短期の利益を最優先にするあまり、中長期的に重要な資産――顧客の信頼、人材の育成、ブランド価値、組織文化――を損ねてしまっては、持続可能な成長は望めません。

本当に強い組織とは、「今すぐ利益になるか」ではなく、「この選択は5年後、10年後の価値につながるか?」という問いを常に持って意思決定をしているものです。


短期利益の罠:「数字は上がったが、何かがおかしい」

短期的な施策で売上や利益が上がると、それだけで成功と判断してしまいがちです。しかし、その裏で、顧客満足度の低下、離職率の上昇、組織の疲弊が進んでいるケースは少なくありません。

たとえば、「患者数を一時的に増やす」ために過剰な広告を打ち出し、予約を詰め込み、スタッフの疲労が蓄積する。結果的に接遇の質が下がり、クレームが増え、リピート率が下がる。数字上は“成功”に見えても、実態としては“持続性のない運営”となってしまうのです。

また、スタッフに無理なインセンティブを課して短期的な数字を達成しても、それが長期的な離職や不信感につながれば、人材資源という最も貴重な資産を失うことになります。

「いま数字が良ければそれでいい」という発想は、組織の根を浅くし、未来の可能性を削ぐリスクを孕んでいます。


長期価値を優先する組織の思考とは?

では、「長期的な価値」を重視する組織は、何を考え、どう行動しているのでしょうか? キーワードは以下の3つです。

  1. 信頼の蓄積を重視する
     お客様、取引先、社員など、ステークホルダーとの「信頼関係」は、数値化こそ難しいですが、長期的な価値を生み出す最も重要な資産です。信頼は一朝一夕で築けるものではありませんが、失うのは一瞬です。だからこそ、短期的な損得ではなく、「相手の期待を超える対応ができているか」を基準に判断する姿勢が求められます。

  2. 教育・育成に投資する
     即戦力ばかりを追い求めるのではなく、自社で時間をかけて人を育てる文化を築くことで、将来にわたる競争力を確保できます。目先の効率や採用コストの削減に囚われるのではなく、教育制度や評価制度に継続的に投資し、「人が成長する組織」に価値を置くことが大切です。

  3. ブランド・文化を守る
     組織の“らしさ”は、時間をかけて培われたものであり、これを崩すような短期的な利益追求は避けるべきです。自社のブランドイメージや文化を守りながら成長していくことが、長期的なファンや支持を得ることにつながります。


経営判断の基準は「5年後に誇れるか」

ある経営者が、こう語ったことがあります。

「今日の決断を、5年後の自分が振り返って“あれは正しかった”と言えるかどうか。それをいつも自問しています。」

この姿勢は、短期志向に流されやすい環境において、非常に重要です。たとえば、単価を下げて価格競争に参入することで一時的に集客できたとしても、それがブランドイメージの毀損や信頼の低下につながれば、5年後に後悔することになるかもしれません。

逆に、短期的には痛みを伴うような改革(価格改定、人材再配置、サービス刷新など)であっても、それが5年後の競争力向上につながるのであれば、長期的視点に立てば正しい判断となるのです。


財務的な持続可能性と両立させるには?

もちろん、長期価値だけを追求しすぎて、短期的な資金繰りが厳しくなるようでは元も子もありません。ここで重要なのは、「短期利益を否定すること」ではなく、「短期利益に引きずられないこと」です。

健全な財務体質と現金収支を確保しつつ、未来のための投資を怠らない。これが長期価値経営の本質です。以下のようなバランス感覚が求められます。

  • 短期の数字は“生き残るため”の手段と捉える

  • 長期の価値は“理念に基づく成長”として位置づける

  • 利益が出た時こそ、未来に向けた投資(教育、システム、仕組み)を行う

経営は「現在の課題」と「未来の可能性」を同時に見つめる高度な意思決定です。その中で、長期的な価値観を持つことが、戦略の質を決定づけるのです。


スタッフも“長期志向”に巻き込む

長期価値経営を実現するためには、トップだけでなく、現場のスタッフにも「長期的なものの見方」が必要です。これは教育によって育成できるものです。

たとえば、「目の前の業務を早く終わらせること」だけでなく、「この改善が次のスタッフのためになる」「この対応が患者さんの今後の信頼につながる」といった“未来を意識した働き方”を推奨し、それを評価する制度を整えることが重要です。

目の前の作業ではなく、「5年後に自分たちが誇れる仕事をしているか」を日々問える文化こそが、組織の持続可能性を高める最大の原動力です。


結論:「目の前の利益」か、「未来の信頼」か

組織経営において、目先の利益を追う誘惑は常につきまといます。しかし、そこで“今の数字”ではなく、“未来の価値”を優先できるかどうかで、組織の成熟度は決まります。

短期的な成功を積み上げても、信頼・文化・人材といった見えない資産を消耗していては、いずれ持続できなくなります。一方で、地道に信頼を築き、教育に投資し、文化を育てた組織は、時代が変わっても、常に選ばれる存在になり得ます。

今この瞬間の選択が、5年後・10年後の組織の未来を形作ります。だからこそ、「長期的な価値を優先する」という姿勢が、未来を切り拓く経営者の基本姿勢なのです。

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