― 迷いのない組織には、人が自然と集まる ―
現代の採用環境は激変しています。「給料がいいから」「家から近いから」という単純な動機だけで人材が集まる時代ではなくなりました。とくに若い世代を中心に、「その会社がどこを目指しているのか」「自分の価値観と合っているか」といった“方向性”への共感が、職場選びの重要な要素になっています。
組織として「どこへ向かうのか」「何を大事にするのか」が明確であればあるほど、その方向に共感する優秀な人材が惹きつけられてきます。一方で、方向性が曖昧であれば、組織は常に“その場しのぎ”の採用やマネジメントに追われ、結果的に人が定着せず、文化も育ちません。
「方向性を明確にする」というのは、単に戦略を練るという話ではありません。人の心を動かし、組織に人材を呼び込む“磁力”を生む根源的な取り組みなのです。
なぜ人は“方向性”に惹かれるのか?
人が働く上で感じたいのは、「自分の仕事が何か大きな意味につながっている」という実感です。単に言われた業務をこなすのではなく、「この組織が目指している未来に、自分が関われている」と思えることが、やりがいとなり、長く働く理由になります。
たとえば、ある医療法人が「地域のいのちと暮らしを支える」という明確な方向性を持っていたとします。そうすれば、そのビジョンに共感した医師や看護師、事務スタッフが「私もその一員になりたい」と感じてくれるでしょう。逆に、単に「とにかく人手が足りないから」「今すぐ働いてほしいから」というメッセージしか発信できない組織には、理念共感型の人材は集まりません。
人材市場は「採用される側」だけでなく、「選ぶ側」も選ばれているという双方向の時代です。だからこそ、組織としての方向性を明示し、その実現に本気で取り組む姿勢を外部に発信していくことが不可欠なのです。
方向性を「言葉」で明示する力
組織の方向性は、経営者の頭の中にあるだけでは意味がありません。どれだけ素晴らしい未来像を描いていても、それが社内外に“言葉”として共有されていなければ、誰にも伝わりません。
明確な方向性とは、「誰が聞いても、何を目指しているかわかる」状態です。難解なビジョン文や抽象的な理念ではなく、誰もが口に出して言えるくらい、具体的でシンプルなメッセージであることが重要です。
たとえば、
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「10年後には、地域で一番頼られるクリニックに」
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「スタッフと患者、両方が幸せになれる歯科医院をつくる」
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「地方から世界に通じる発信力を持つ組織に」
このような言葉があれば、求職者にとっても「その未来に自分がどう関われるか」を想像することができ、共感が生まれます。逆に、方向性が「売上を伸ばす」「拡大する」といった経営側の都合だけに終始していては、働く側の心には響きません。
方向性が人材の「定着率」にも影響する
方向性が明確であることは、採用時だけでなく、その後の定着や活躍にも大きく関係します。
入社当初は誰もがやる気に満ちていますが、業務に追われる中で「なぜこの仕事をしているのか」が見えなくなると、モチベーションは下がり、離職リスクが高まります。こうした“目的の喪失”を防ぐのが、組織の方向性です。
社員が何かを迷ったとき、「私たちはどこを目指していたか」「この行動はその未来に合っているか」と振り返ることができれば、仕事に対する納得感が生まれ、継続的な意欲を保つことができます。
また、方向性がしっかりしている組織では、評価制度やキャリアプランもそれに沿って設計されているため、社員自身が「この会社でどう成長できるか」を明確に描くことができるようになります。
組織文化と方向性の一体化
方向性は、ビジョンやスローガンとして打ち出すだけでは不十分です。実際の組織文化、つまり“日常の行動様式”と一致していることが必要です。
たとえば、「挑戦する人材を応援する」という方向性を掲げていながら、社内では失敗を厳しく咎める文化があるとすれば、それは言行不一致です。逆に、「地域密着型」を掲げている組織が、スタッフ全員で地域イベントに参加し、地域住民との関係づくりに力を入れているのであれば、それは“方向性が文化として体現されている”好例です。
人材は、言葉以上に行動を見ています。採用ページにどれだけ素晴らしい理念が書かれていても、実際の現場がその通りに動いていなければ、優秀な人ほど離れていきます。逆に、行動が方向性と一致していれば、理念に惹かれて入った人材が「やっぱりこの会社で働いてよかった」と実感し、定着率も高くなるのです。
採用ブランディングにおける方向性の力
方向性が明確であることは、採用ブランディングの根幹でもあります。
求人媒体にどのような条件を記載するかよりも、「この組織は何を目指しているのか」「どんな未来を一緒につくりたいのか」を発信できる企業のほうが、圧倒的に人材を惹きつけます。とくにSNS時代では、会社の雰囲気やビジョンは一瞬で伝わります。動画や記事、スタッフの声などを通じて、“方向性を感じられる情報発信”を意識することが鍵です。
一貫した方向性は、採用だけでなく、患者や顧客からの評価にもつながります。スタッフが「何のために働いているのか」を理解している組織は、対応にも芯があり、信頼感を持たれやすいのです。
結論:「どこを目指しているか」を語れる組織は強い
優秀な人材が集まる組織には、必ず明確な「方向性」があります。そしてその方向性が、言葉と行動の両面で組織に浸透しており、「この未来を一緒に創りたい」と人が感じられる仕組みができています。
逆に、「何をしている会社かわからない」「将来どうなりたいのか見えない」組織には、誰も本気では関われません。だからこそ、経営者やリーダーが自らの言葉で語り、全員が同じ未来を見つめられる状態をつくることが、人材戦略の最も重要な起点なのです。
人は、目的に引き寄せられ、ビジョンに共感し、志に集まります。あなたの組織は、その「志」を明確に示せていますか?
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