―「共感なきビジョン」は、組織を動かさない ―
企業や組織が掲げるビジョンとは、単なる未来の願望ではありません。それは「私たちはどこを目指すのか」「この組織が果たす社会的な意味は何か」という、組織に関わるすべての人にとっての“道しるべ”です。
しかし、どれほど立派なビジョンであっても、それが社員に共感されていなければ意味がありません。トップだけが熱く語っていても、現場の社員が「それは私の仕事と関係あるのか?」と感じてしまえば、ビジョンはただの装飾になってしまいます。
組織を動かすのは、「理念」そのものではなく、それに“共感する人”の力です。だからこそ、全社員がビジョンに心から共感し、自らの言葉で語れるような仕組みづくりが不可欠なのです。
ビジョンが共感されない組織に起きていること
多くの企業が「ビジョンをつくったのに、浸透しない」と悩みます。その原因の多くは、次のような“設計ミス”にあります。
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ビジョンが抽象的すぎる
「世界一になる」「社会に貢献する」など、表現が曖昧だと、社員が自分とのつながりを感じられません。 -
トップの独り言になっている
経営者の頭の中では情熱的なストーリーがあるが、それが社員に伝わる言葉に落とし込まれていない。 -
行動に落とし込まれていない
ビジョンと日々の仕事が分離しており、「実務と関係ないもの」と認識されてしまっている。 -
“押しつけ”の雰囲気がある
朝礼や会議で「唱和」させられるが、意味や意図を知らされないまま繰り返されるため、反発や無関心を招く。
こうした状態が続くと、せっかくのビジョンが「上が勝手に掲げているもの」「自分には関係ないもの」として扱われるようになり、組織の一体感は生まれません。
「共感」されるビジョンの3つの条件
ビジョンを社員に共感されるものにするには、以下の3つの要素が欠かせません。
① “物語”があること(ストーリー性)
人は論理よりも“物語”に共感します。ビジョンは、理念や数値目標ではなく、「なぜそれを目指すのか」「どういう思いからその未来像を描いたのか」といった背景のストーリーを語って初めて、人の心を動かします。
「創業時の苦労」「社会に対する危機感」「仲間との体験」などを交えて語られるビジョンは、感情に訴え、共感を呼び起こします。
② “自分ごと化”できること(関係性)
社員が「そのビジョンに自分がどう関われるか」「どのように貢献できるか」をイメージできなければ、共感は生まれません。
「この職種の私が、どうやってこのビジョンに貢献するのか?」という問いに答えられるよう、役割ごとにビジョンの意味を翻訳し、それを現場の言葉で語り合うことが必要です。
③ “行動とつながっている”こと(具体性)
共感されるビジョンは、日常の行動と地続きです。たとえば「患者さんに安心を届ける」というビジョンを掲げているなら、受付対応や説明の仕方、言葉選びなどすべてにその精神が宿るべきです。
ビジョンと行動がつながっていれば、社員は「これはビジョン実現の一歩だ」と感じながら働けるようになります。
社員がビジョンに共感できる“仕組み”のつくり方
ただ「共感しろ」と言っても、人の心は動きません。共感は、自然と“育てられる”ものです。そのための仕組みをいくつか紹介します。
■ ビジョン対話の場をつくる
年に1回の経営方針発表だけでは、ビジョンは定着しません。朝礼、ミーティング、面談など、日常の中でビジョンに触れる機会を増やすことが重要です。
特に効果的なのは、社員が自らの体験を通じてビジョンを語る「共有の場」です。
「先日、こんな患者対応があった。これはビジョンの〇〇に通じると思う」
「この取り組みは、うちのビジョンに合っていたと感じた」
このような“共感の言語化”を習慣化することで、ビジョンは現場で“生きた言葉”になります。
■ ビジョン体現を称える仕組み
単に数字や売上だけで評価するのではなく、「ビジョンを体現した行動」も評価の対象にしましょう。
たとえば「バリュー表彰制度」を設け、月に1回、ビジョンに沿った行動を取った社員を称えるなど、称賛される行動が“組織の価値観”として共有されるようになります。
■ 採用・教育にビジョンを組み込む
ビジョンへの共感は、入社前から始まっています。採用面接では、経営者が直接ビジョンを語ることで、「この組織は本気で未来を描いている」と感じてもらえます。
また、入社後の新人研修でも、ビジョンが組織文化の核であることをしっかり伝え、配属後も定期的に振り返る機会をつくることが効果的です。
トップの“語る力”が、組織をつなげる
いくら仕組みを整えても、最終的に社員の心を動かすのは「人の言葉」です。
その中心となるのは、やはりトップの“語る力”です。
ビジョンを定義するだけでなく、何度でも、何度でも、自らの言葉で語る。ストーリーを交え、情熱を込め、わかりやすく伝える。そうすることで、社員は「この人についていきたい」と感じ、ビジョンを“自分ごと”として受け取れるようになります。
言葉には魂が宿ります。トップがどれだけ本気でビジョンを信じているかは、社員に必ず伝わります。
結論:「共感から始まる組織づくり」が未来を拓く
強い組織とは、「一部の人が頑張る組織」ではなく、「全員が同じ未来を見つめ、主体的に動く組織」です。そのためには、ビジョンをただ掲げるのではなく、全社員が「その未来をともに描いている」という感覚を持つことが必要です。
そのためには、共感を生む仕組みづくり、日常の言語化、評価と行動の一致、そしてトップの語りが欠かせません。
あなたの組織では、ビジョンは社員一人ひとりに“届いて”いますか?
単なる掲示物ではなく、日々の仕事とつながり、胸の中で“響いて”いますか?
ビジョンとは、組織の魂です。
そしてその魂は、人の共感によって初めて、本当の力を持つのです。
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