【組織マネジメント100の考え方】#10「全社員がビジョンに共感できる仕組みをつくる」

―「共感なきビジョン」は、組織を動かさない ―

企業や組織が掲げるビジョンとは、単なる未来の願望ではありません。それは「私たちはどこを目指すのか」「この組織が果たす社会的な意味は何か」という、組織に関わるすべての人にとっての“道しるべ”です。

しかし、どれほど立派なビジョンであっても、それが社員に共感されていなければ意味がありません。トップだけが熱く語っていても、現場の社員が「それは私の仕事と関係あるのか?」と感じてしまえば、ビジョンはただの装飾になってしまいます。

組織を動かすのは、「理念」そのものではなく、それに“共感する人”の力です。だからこそ、全社員がビジョンに心から共感し、自らの言葉で語れるような仕組みづくりが不可欠なのです。


ビジョンが共感されない組織に起きていること

多くの企業が「ビジョンをつくったのに、浸透しない」と悩みます。その原因の多くは、次のような“設計ミス”にあります。

  1. ビジョンが抽象的すぎる
     「世界一になる」「社会に貢献する」など、表現が曖昧だと、社員が自分とのつながりを感じられません。

  2. トップの独り言になっている
     経営者の頭の中では情熱的なストーリーがあるが、それが社員に伝わる言葉に落とし込まれていない。

  3. 行動に落とし込まれていない
     ビジョンと日々の仕事が分離しており、「実務と関係ないもの」と認識されてしまっている。

  4. “押しつけ”の雰囲気がある
     朝礼や会議で「唱和」させられるが、意味や意図を知らされないまま繰り返されるため、反発や無関心を招く。

こうした状態が続くと、せっかくのビジョンが「上が勝手に掲げているもの」「自分には関係ないもの」として扱われるようになり、組織の一体感は生まれません。


「共感」されるビジョンの3つの条件

ビジョンを社員に共感されるものにするには、以下の3つの要素が欠かせません。

① “物語”があること(ストーリー性)

人は論理よりも“物語”に共感します。ビジョンは、理念や数値目標ではなく、「なぜそれを目指すのか」「どういう思いからその未来像を描いたのか」といった背景のストーリーを語って初めて、人の心を動かします。

「創業時の苦労」「社会に対する危機感」「仲間との体験」などを交えて語られるビジョンは、感情に訴え、共感を呼び起こします。

② “自分ごと化”できること(関係性)

社員が「そのビジョンに自分がどう関われるか」「どのように貢献できるか」をイメージできなければ、共感は生まれません。

「この職種の私が、どうやってこのビジョンに貢献するのか?」という問いに答えられるよう、役割ごとにビジョンの意味を翻訳し、それを現場の言葉で語り合うことが必要です。

③ “行動とつながっている”こと(具体性)

共感されるビジョンは、日常の行動と地続きです。たとえば「患者さんに安心を届ける」というビジョンを掲げているなら、受付対応や説明の仕方、言葉選びなどすべてにその精神が宿るべきです。

ビジョンと行動がつながっていれば、社員は「これはビジョン実現の一歩だ」と感じながら働けるようになります。


社員がビジョンに共感できる“仕組み”のつくり方

ただ「共感しろ」と言っても、人の心は動きません。共感は、自然と“育てられる”ものです。そのための仕組みをいくつか紹介します。

■ ビジョン対話の場をつくる

年に1回の経営方針発表だけでは、ビジョンは定着しません。朝礼、ミーティング、面談など、日常の中でビジョンに触れる機会を増やすことが重要です。

特に効果的なのは、社員が自らの体験を通じてビジョンを語る「共有の場」です。

「先日、こんな患者対応があった。これはビジョンの〇〇に通じると思う」
「この取り組みは、うちのビジョンに合っていたと感じた」

このような“共感の言語化”を習慣化することで、ビジョンは現場で“生きた言葉”になります。

■ ビジョン体現を称える仕組み

単に数字や売上だけで評価するのではなく、「ビジョンを体現した行動」も評価の対象にしましょう。

たとえば「バリュー表彰制度」を設け、月に1回、ビジョンに沿った行動を取った社員を称えるなど、称賛される行動が“組織の価値観”として共有されるようになります。

■ 採用・教育にビジョンを組み込む

ビジョンへの共感は、入社前から始まっています。採用面接では、経営者が直接ビジョンを語ることで、「この組織は本気で未来を描いている」と感じてもらえます。

また、入社後の新人研修でも、ビジョンが組織文化の核であることをしっかり伝え、配属後も定期的に振り返る機会をつくることが効果的です。


トップの“語る力”が、組織をつなげる

いくら仕組みを整えても、最終的に社員の心を動かすのは「人の言葉」です。
その中心となるのは、やはりトップの“語る力”です。

ビジョンを定義するだけでなく、何度でも、何度でも、自らの言葉で語る。ストーリーを交え、情熱を込め、わかりやすく伝える。そうすることで、社員は「この人についていきたい」と感じ、ビジョンを“自分ごと”として受け取れるようになります。

言葉には魂が宿ります。トップがどれだけ本気でビジョンを信じているかは、社員に必ず伝わります。


結論:「共感から始まる組織づくり」が未来を拓く

強い組織とは、「一部の人が頑張る組織」ではなく、「全員が同じ未来を見つめ、主体的に動く組織」です。そのためには、ビジョンをただ掲げるのではなく、全社員が「その未来をともに描いている」という感覚を持つことが必要です。

そのためには、共感を生む仕組みづくり、日常の言語化、評価と行動の一致、そしてトップの語りが欠かせません。

あなたの組織では、ビジョンは社員一人ひとりに“届いて”いますか?
単なる掲示物ではなく、日々の仕事とつながり、胸の中で“響いて”いますか?

ビジョンとは、組織の魂です。
そしてその魂は、人の共感によって初めて、本当の力を持つのです。

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MHアドバイザリー株式会社

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