【組織マネジメント100の考え方】#23「“育成”は“育つ環境づくり”である」

― 人は“教えた通り”ではなく、“育った環境の通り”に育つ ―

「丁寧に教えているのに、なかなか育たない」
「何度も伝えているのに、同じミスを繰り返す」
「そもそも指導に時間をかけられない」

こうした悩みは、現場の教育担当者や経営者にとって日常的な課題です。
しかし、多くの組織が見落としているのが、「育成=教えること」ではないという本質です。

人は、言われた通りには動きません。見た通りに動きます。
つまり、教える内容以上に、「どんな環境で育ったか」が、成長を左右するのです。

育成とは、知識を詰め込むことでも、技術を教えることでもなく、“育ちやすい土壌”を用意すること
本記事では、「育てようとする前に、育つ環境を整える」ための視点と仕組みを解説します。


育成がうまくいかない組織の3つの特徴

① 教える人によって内容や方法がバラバラ

OJTが属人的で、誰に教わるかで育成の質が変わる。基準が明確でないため、教える側も「何をどこまで教えるべきか」が曖昧。

② 現場に“見本となる行動”が少ない

言っていることと、やっていることが違う。「マニュアルではこう言ってるけど、現場では誰もやっていない」という矛盾が多く、新人が混乱する。

③ ミスをすると怒られる文化

失敗を学びと捉えるのではなく、「できないこと」を責める空気がある。結果、委縮して挑戦できず、成長スピードが遅くなる。

こうした組織では、どれだけマニュアルや教育研修を充実させても、人は育ちにくいのです。


“教え方”より、“育ち方”を設計する

人材育成において、本当に重要なのは「何をどう教えるか」よりも、**“どんな場で、誰のそばで、どんな空気の中で働いているか”**です。

なぜなら、人は「教わったこと」よりも、「観察したこと」「体験したこと」に強く影響されるからです。

たとえば:

  • 自分の上司が、常に笑顔で患者対応していれば、自分もそうしようと思う

  • 周囲が先輩に積極的に質問していれば、自分も安心して聞ける

  • 失敗しても励まし合う文化があれば、自分も挑戦できる

これが“環境が人を育てる”という原理です。


育成力の高い組織が整えている“環境要素”

1. 【育成フローとチェックリストがある】

何を、いつ、どの順序で学ぶのかが可視化されていることで、新人は「次に何をすべきか」が明確になり、安心感を持って進めます。

また、教える側も「抜け漏れなく教えられているか」を確認できるので、OJTの質が一定に保たれます。

2. 【“見本となる先輩”がいる】

どれだけマニュアルを用意しても、実際に現場で働く先輩が「基準通りのふるまい」をしていなければ、新人は迷い、守らなくなります。

  • 接遇の姿勢

  • 話し方

  • タイムマネジメント

  • クレーム対応の冷静さ

こうした“見せる教育”がある組織ほど、自然と人が育ちます。

3. 【フィードバックの文化がある】

「やってみて終わり」ではなく、「よかった点」「改善点」を伝える習慣があることで、本人は自己認識を深め、次の行動につなげられます。

ここで重要なのは、責めるのではなく、“期待を伝える”こと。
「もっとこうしてくれたら、すごく良くなると思うよ」と伝えられると、前向きな学びになります。

4. 【挑戦と失敗を許容する空気がある】

「やってみよう」「まずやってみていいよ」と言ってもらえる文化があると、新人は萎縮せず、成長が加速します。

「失敗してもリカバリーできる」と思える安心感が、挑戦意欲を引き出します。


育成担当者の“役割”は「教えること」ではない

育成担当者が担うべき最も重要な仕事は、「環境を整え、伴走すること」です。
具体的には:

  • 新人が安心して相談できる雰囲気をつくる

  • 初期段階での「成功体験」を意識的に演出する

  • わからないことを「聞いてもいい空気」をつくる

  • 自分の背中で“基準”を見せる

新人がつまずいたときに「なぜできなかったのか」ではなく、「どうすれば次はできるか?」を一緒に考えてあげられる人が、育成力のある人です。


「育てる組織」ではなく、「育つ組織」へ

一人の“指導者”に依存する育成は限界があります。
これからの時代に求められるのは、**「組織全体で人を育てる仕組み」=“育つ組織”**です。

  • 誰が教えても同じように育つ

  • 自然と周囲に見本がある

  • 成長の段階が見える化されている

  • 努力や挑戦が称賛される文化がある

これが整えば、特別な才能や情熱を持たなくても、自然と人は成長していきます。


結論:“教える”より“育つ環境”を整えることが、人を育てる

「人が育たない」のではなく、「育ちにくい環境になっている」のかもしれません。
育成とは、“個人の責任”ではなく“組織の設計”の問題です。

あなたの職場には、安心して質問できる雰囲気がありますか?
失敗しても「成長のチャンスだ」と受け止められる土壌がありますか?
頑張っている人に、フィードバックが届いていますか?

育てようとする前に、育つ土台を整える。
それが、持続可能な組織成長の第一歩です。

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MHアドバイザリー株式会社

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